囲碁を解くカギは統計物理にあるという思いがしばらく続いている. 碁盤はまさに2次元格子模型だ. だが,こんなことは誰でも考えつきそうで,ちょっとネットで探したが それっぽいのはなかなか見つからない. 統計物理専門の人で囲碁が趣味 という人はいるが,統計物理で囲碁を研究している人はおそらく少ない. たぶん,こういう考えでは強い囲碁ソフトはなかなか作れないし, 物理屋さんは囲碁のような人工的な産物は研究の対象外だからだろう.
とりあえずはある与えられた盤面の評価ということである. できるだけ先読みしないで盤面の評価をすることは,先読みする際にも 重要である. 読んだ先の盤面がいい局面か悪い局面かを見極める必要が あるからだ. これはどんな対局囲碁ソフトでも ad hoc にやっている 作業であろう. 統計物理はこれに理論的な根拠を与えてやろうという ことである.
特に平均場近似なんかは実際有効に思える. よく考えればプロだって 平均場近似を使っている. それはヨセの計算である. ヨセの計算では黒石と白石のランダムネスを仮定してその平均値で ヨセの大きさを見積もる. だから 1/2 目とか 1/3 目とかいう 値が出てくるのである. 小ヨセで時間のある碁なら読み切りかとも 思いますが...
状態変数はまず各石の強さ. 石の強さの定義はよくわからないが, とりあえず最小の強さを 0 最大の強さを +1 としてやろう. 最小とは全く味も何もなく取られている状態(よくわからない)? 最大の強さは2眼が確定した状態であろう.
もう一つの状態変数は石の置かれていない空点が今後黒石になるのか,白石になる のか,それとも空点のままで黒地になるのか,白地になるのかという 状態としてみよう. その空点の期待値が地合ということになろう.
自明な命題として以下のものが挙げられる:
上記の条件は拘束条件として使えるとして,要はそれ以外の場合, 2眼も確定していなければまだ,完全につながってもいない場合には, 統計物理的な相互作用によってその石の強さが決まるし,その周りの 空点の状態も決まると考えられる.
とりあえず定義できそうなのは二つの石の間の相互作用の強さである. これはヨセの統計力学を借りて,白と黒のランダムネスを仮定して おおまかに計算できる. 具体的には黒石のクラスタが2つあるとして,その 間の道を考え,その道の上に全部黒石が置かれる確率を (1/2)^(道の長さ) とかにして,すべての道を考えて,どこかがつながる確率を計算すればよい. 道のつながる確率は簡単のため独立とすると, 1 - Π_i(1-道(i)のつながる確率) で,少なくとも1つの道がつながる確率 がでる. 例えば 一間トビで相手の石が周りにない場合の石のつながり確率は, 直接継ぐ道が 1/2 で,そのほかに回り込んでつながる手もあり, 上の式にぶちこむと 1/2 +α, コスミの場合は直接継ぐのが 1/2 で,3/4 + α とかになる (αは周りの配石によって変わる).
もう一つ評価できそうなのは,ある石のまわりに眼できるかどうかという 評価である. これも石のランダムネスを考えて周囲の空点のまわりの 石の配置で可能であろう. だが,このとき2眼以上確実にあれば,それは 強さ1としてよいが,1眼しかないとかいうときはなかなか難しい. というか,やはりこれは相互作用で決めるしかないのか. 他の石とつながらなくて1眼しかできない場合は強さ 0 で,それらの場合の 数を適当なランダムネスの仮定のもとで足し合わせてやれば,その石の強さが でて,平均場方程式かモンテカルロでまわしてやれば答えは出るはずである.
というとりあえずいい加減な落ちをつけたところで,今日の負け碁反省会. これもしばらく前の WING での対戦. 私(11k*) の白番で,相手は 12k*,コミは -1.5. 最初に教訓を書いておくと,ダメ詰まりと見落としは怖い. 統計物理などという前に自分の棋力を上げなくては.
統計物理などとマニアックな路線に進むとますます読者は減るような気はする が... とりあえず図がないと何がなんだかわからないと思うので今日は図を追加. 本来は脱衣囲碁などエッチ路線に走る予定だったんだが...
まずは石の接続確率について. 左上の一間トビがあったときに,直接つなぐ道を考えます. 黒1と白2は確率1/2で起きると仮定してここがつながる確率はまず1/2. しかし一間トビをつなぐ道はこれだけではなく,黒3から黒7のような回り道もある. ただし,この道も白10のようにブロックされる確率があり,道が長くなれば なるほど確率は下がる. というわけで,そんなに長い道まではどうせ考えなく てよいと思われる.せいぜい13から21ぐらい? 石が増えてくれば長い道の 確率も上がるので高い確率のやつを取り出す工夫が必要か.
中央のコスミも同様で,黒23あるいはその左下に継げば つながるが,白24,26を打たれると切断されるので接続確率は3/4. あとは回り道も考えて確率を出す.
それから,目のできる可能性については,左下のように注目している石を通る 閉路(欠け目にならないように注意して)を考えて,それが黒29から39のよ うに全部埋められれば目が確定するのでその確率を考える. いろんな閉路が考えられるが,例えば白40のようになっているところはこの 白を取り込むような図に制限される. もし生きている・あるいは生きかけてい る白がいたら,その確率に応じて取りこめる確率を計算する必要はある. しかし,これもあまり長いパスは考えなくてよいと思われる. 脱線するが,初心者はこの長いパスの確率を過大評価しているのではないだろう か.
ところで,難しいのは空点の価値である. そこが黒地になるのか,白地になる のか,あるいは黒石が置かれるのか,白石が置かれるのか,ダメになるのか. まあとりあえずは中国ルールっぽく考えて,簡単に黒か白かの2者択一にした方 がよいかもしれない. 近い空点なら石の価値を測ったように,そこを含んで囲む閉路を考えてその確率とかを 考えた方が自然かな. でも遠い方は問題だなー. ちょっと思いつくものは ad hoc すぎてあまりここに書く気も進まないが, 重み付きの和みたいなもの. つまり,ある注目点から距離 d_i にある黒の強さ s_i とする(i=1,...,黒石の数),距離 d_j にある白の強さ s_j (j=1,...,白石 の数). Σ_i (s_i / d_i) - Σ_j (s_j / d_j) とかで測る? なんとも確率論的な裏付けのない式でちょっと嫌いだけど,なんか ランダムネスの仮定を入れればもうちょっとまともになるかな? そもそも距離の定義をどうするかも問題だしな.
いろいろ参考にしようと思っていろんなホームページを見に行ったが, 漠然としていてよくわからないページが多い. やはり参考になるのは囲碁プログラムを作っている人たちのページで, とりあえず 対局囲碁「鈍」のページはリンク等も充実していてすばらしい. 掲示板に書き込んだらフォローを頂けたので このページのいい加減な話もそのうちもうちょっとはまともになるか? 今日はとりあえず頂いたコメントを参考に補遺編.
まずはちょっと説明不足だった部分. 囲碁には石を取るという要素があるので, 石を取って連絡したり,地を作ったりするということを考えに入れないと いけない. 基本的には NP hard な探索はできるだけ避けたいので, 石を取る部分についてどう考えるかはなかなか難しい. とりあえず存在する石については,石の強さ s_i というのを定義したから, それが小さければ取れる確率は高いことになり,大きければ取れる確率は 低いことになる. 存在しない石とか,そういうことを考え出すときりがない のでとりあえず石の評価は(多少精度が低くてもいいから)比較的狭い範囲で 考えて,それよりも全体のバランスが重要. 全体のバランスとは何だろう? やはり空点の価値かな. 空点の価値の合計が 高くなるというのが物理としては自然な考え方ではある. だけど前回も書いたように空点の価値は難しく,実は石の価値も空点の価値に 依存するという相互関係があるので,一方を決めれば他方が決まるのではなく, 緩和させないといけない(まあその部分は平均場で誤魔化すという手はあるけ ど). ただし,平均場は符号化とかではうまくいったけど,一般の グラフィカルモデルではうまくいかないとかいろいろ問題もあって やっぱりなかなか難しいなー.
囲碁の統計力学の話は多少寝かせておくことにして,今日は初心者のための 注意形入門ということで,子供と打っていてあるいは私自身時々手拍子で やられてしまう形をいくつか紹介しよう. 基本的にはアタリになるまで2手以上かかるものはなかなか気づきにくいようだ.
以下の図では全部黒が先に打つと白が困る. とりあえず図で>を押して再生しながら読んでほしい.
まず初心者でいちばんありがちなのが左上の形で1線に押さえて放置してしまう. これは黒に1(C18)と切られて困る. この場合B18 か C17 に継ぐ必要がある. (ただし石の配置によっては切られても白が助かる場合もある)
次にその右の形. 黒に3(H18)と切られてやはり困る. 白は H18 や G18 に継いでおく必要がある.
さらにその右. これは一見かけついで守ってあるように見えるが黒の R19 の 石が働いて,5(Q18)と切られて6(Q19)と抜いた形がアタリで7(Q18)と取られ る. これはウッテガエシの一番簡単な場合で,6と抜くまでアタリの形が 盤に現れないので気づきにくいようだ. 白は R19 に押さえるか Q18 に 継いでおかなければならない.
さて,中央に移ろう. これは白が2目の頭を2カ所もたたかれている非常に 悪い形で,黒9(K11)でも K12でも L12 でもどちらかの白2目は確実に 取られてしまう. 黒11(L12)までは最悪の場合の結果である. この形の急所は L11 で,白がそこにあるので守ってある ように見えるが,ダメ詰まりと2目の頭には注意が必要である. 白が守るとすればやはり K11, K12, L12 辺りであるが,形が悪いので どちらかの白を捨てるという考え方もありうる.
その右の形は黒一子がアタリになっているだけに初心者は間違えやすい. 黒13(S10)と切られるとアタリの黒を白14(T13)と抜いても黒15(T10) でアタリにされて逃げられません. このように目先のアタリに注意という のはウッテガエシの場合と似ている. 白は T11 に押さえるのではなく,S10 か T10 に継いでおくべきだった.
中央下は比較的簡単なはずだが,H5 と M5 にハネてあると白3子を守ってある ような錯覚にとらわれてしまう. 実際に黒19(L5)に切られてしまったという ことになってしまう.白20(K5)は黒のアタリであるが白もアタリになっている. 自分のアタリを見ていないのも初心者の特徴である. 白は K4, L4, L5 などのどこかに守る必要がある.
最後の右下の形は少し高度であるが,白が不用意に T7 に押さえてしまうのは 黒をアタリにしているだけに初心者が陥りやすい手である. 黒は23(S7)と切ってコウにしてくる手が生じる. コウが強ければ断じて押さえればよいのだが,コウを争わないのであれば 白T7では S7に引いておくべきである.
このような形はほかにもいくつかあって,詰め碁や手筋を勉強すればきっと 上達するはずである(と思う. 自分はまだまだダメだけど...). 少なくともここに示した図くらいはそんなにミスせず打てれば初心者卒業?
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